風邪ニモマケズ
雪ニモ夏ノ暑サニモマケズ
丈夫ナカラダヲモチ
上記のほとんど誰でも知っている宮沢賢治の詩。先ほどご紹介した動画に出てくる本のタイトルでもあります。
(ロジャー・パルバースさんの訳)
Strong in the rain
Strong in the rain
Strong against the summer heat and snow
He is healthy and robust
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strong in the rainとstrongという言葉を使ったロジャー・パルバースさんの訳が気になったので『英語で読み解く賢治の世界』を購入してきました。まず他の訳とも合わせて確認します。
(株式会社mpiの動画の訳)
I will not give in to the rain
I will not give in to the wind
I will have a healthy body
that won’t give in to the snow or to summer’s heat
(MLS Japanの動画の訳)
Rain, I will not be defeated
Wind, I will not be defeated
Snow, nor the summer heat,
I will not be defeated
I want to remain strong and healthy
(ウィキペディアの訳)
not losing to the rain
not losing to the wind
not losing to the snow nor to summer's heat
with a strong body
ロジャー・パルバースさんの訳を読ませてもらって、自分が気になった点は以下の2点です。
Strongで始めた理由
主語をHeとしている理由
他の詩は主語の人称をIにしているのにパルバースさんはHeで始めています。母国語の詩なら無意識に行うでしょうが、これは翻訳ですので何かしらの意図が働いているのでしょう。
Strongで始めた理由
端的にいえば、詩的効果を最大限に生かすために英語ではstrongを選んだと言えそうです。以下関連個所の抜粋です。
この美しい祈りのような詩は、「……マケズ」と否定形で始まります。この「マケズ」を文字通りに訳せば、unyielding(屈しない)とか、not giving in to (負けない)となるかもしれません。しあkし、unyielding to the rainやnot giving in to the rainとしてしまうと、なんだか弱い感じがしますし、このようなことばで詩を始めるのは効果的ではありません。そんなふうに訳してしまいますと、詩にならないのです。
(中略)
「雨ニモマケズ」の詩は、最初の1語が重要です。この詩は「雨」という語から始まります。したがって、英語にするにあたっては、原文と同じように、最初の1語を強烈な印象を与えるものにしたいと思いました。そこでぼくはstrongという単語でこの詩を始めることにしました。このstrongという英語は詩的な響きも備えています。これを冒頭に出すことで、日本語の原文と同じようなリズムを英語で奏でられる、と考えたのです。
主語をHeとしている理由
以下の部分が3人称の主語heが必要性を語っている部分ですが、この部分は日本語では主語がないのに英語では主語がないと英語として落ち着かないという説明が主眼にある感じです。
この詩を英訳するにあたっては、やはり3人称の主語heが必要だと思います。賢治の原文には主語がなく、最後まで一体誰のことをうたっているのかわかりません。しかし、英語ではheを使っても、これと同じような効果が期待できます。英語を読む読者は、heが使ってあっても、それは一体誰のことなのか、よくわかりません。ただ、残念なことに、ここではheという男性を示す代名詞を使わざるをえませんでした。その結果、「雨ニモマケズ」の英訳でうたわれている人物は男性になってしまいますが、しかし、それは結局賢治その人であるわけですから、やはり男性にするのが自然だと思います。英語では、何らかの代名詞を使わないと、少し奇妙な、わかりにくい詩になっています。
ここからはYutaの解釈になってしまいますが、以下の部分を見て考えると、賢治自身は病弱で「雨ニモマケズ」という人には到底なれないことを何よりも自分自身で痛感していたように思えます。
清六さんは、「賢治は雨をほんとうに恐れていました」と教えてくれました。この雨に対する恐怖心は、賢治が生きた明治・大正・昭和の時代のなかで考えてみなければなりません。あの時代は、まだ抗生物質による治療が進んでいませんでした。人々は風邪をひくと、肺炎になってしまうことも少なくありませんでした。以前は結核は不治の病で、それによってたくさんの人たちが命を落としました。
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ぼくらは常に心に留めなければなりません。「雨ニモマケズ」は、一種の祈りの詩です。実際の賢治はここでうたわれているような人物ではなく、そのような人になりたいと思ってからこそ、この詩を書いたのだと思います。
「雨ニモマケズ」は賢治の生前に発表されることはありませんでした。それは賢治が持ち歩いていた手帳に、自分の理想の生き方として、漢字とカタカナでつづられていました。
頑張ればなれるという範囲を越えてしまっていて、理想の人物像を語っているために自分ではないheという3人称を使ったと考えることが可能かもしれません。この後の部分はずっとheが主語で訳されているのですが、最後の最後の部分ではIが使われていますので、一層効果的になるかもしれません。
ソウイウモノニ
ワタシハナリタイ
That is the kind of person
I want to be
英語教師も含めて、どの資格がいいのかとか、資格対策勉強法とか、英語学習者はいつまで語れば気が済むのでしょうか。英語学習においては大切なことは認めますが、本格派勉強法を提唱する人でさえ、本物の素材に大して触れていませんよね。もっともっと広い世界を見て、感じ、表現できるようになることを目指したいものです。パルバースさんの新書を読ませてもらって一層その思いを強くしました。
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