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Uncharted Territory

自分が読んで興味深く感じた英文記事を中心に取り上げる予定です

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アイデンティティ政治

 



アメリカ政治好きは今頃ウッドワードのFearを読んでいるのでしょうが、最近になって「アイデンティティ政治」という言葉を知ったYutaはFrancis Fukuyamaの新刊を読み始めています。雑誌Foreign Affairsで抜粋版が読めるので興味がある方はこちらをどうぞ。

Against Identity Politics
The New Tribalism and the Crisis of Democracy
By Francis Fukuyama



September 11, 2018·4:29 PM ET

さらにもっと簡潔に内容を知りたい方はNPRのインタビューがいいです。Foreign Affairsの内容の肝が入っていました。音声スクリプトもあるので英語学習にも役立てられます。

人種のような生まれながらのアイデンティティを持ち出すと交渉の余地、妥協の余地がなくなるという主張は納得です。むしろ交渉も妥協もしたくないから変更不可能な生物学的な特徴を持ち出すのかもしれません。

CORNISH: How do you see it playing out in U.S. politics today? And is it playing out for the worse?
今日のアメリカ政治でどんな役割を果たしているとみていますか。悪化する方向になっていますか。
FUKUYAMA: I think that the real problem in American politics is we've shifted from arguing about economic policies to arguing about identities, where you have a number of identities rooted, unfortunately, in biology on both the left and the right, where you really can't compromise or negotiate, you know...
アメリカ政治の本当の問題は我々が変化して経済政策を論ずるのではなく、アイデンティティを論ずるようになったと思うのです。いつものアイデンティティは運の悪いことに右派も左派も生まれついたものを根拠にしています。そこでは妥協することも交渉することもできません。
CORNISH: Like, you can't negotiate with something if it is so tightly connected to just who you are - fundamentally who you are.
あなたが何者であるか、根本的に何者であるかに密接に結びついているものとは交渉しようがないということですね。
FUKUYAMA: That's right. I mean, if it's based on the way I was born, I can't change that. And so you're stuck with that identity. And I think that that's really toxic for democratic politics because it makes communication, discussion, compromise much more difficult. And it also erodes the necessary commonly held beliefs that are necessary to maintain a democracy.
その通りです。つまり、生まれながらのものであるなら、それを変更することはできません。そのアイデンティティからは逃れられません。民主政治には本当に有害だと思います。意思疎通、議論、妥協をはるかに困難にしてしまうからです。それに民主政治を維持するために必要な通念を損ないます。

アイデンティティ政治は本来は60年代の市民権運動以降マイノリティの権利拡張などリベラルなものだったのが保守派が援用するようになったとフクヤマは考えているようです。

CORNISH: Is it all that surprising that we've reached a point where you would have, like, white America talking about its identity?
このような状況になってしまったというのはまったく驚きですか。例えば白人のアメリカ人が彼らのアイデンティティを語るようになるというのは。
FUKUYAMA: I think it's perhaps not surprising, although I must say that it's very dispiriting. There's been racism and xenophobia for a long time. I think what's unique about this moment is that a lot of people on the "alt-right," white nationalists that borrow the framing of left-wing identity politics to say we white people are an oppressed minority. That's something I think is quite new in our politics.
驚くということではないですが、落胆させるものだと言わないといけません。これまでも人種差別と外国人排斥はありました。現段階で独自なものは「アルトライト」や白人至上主義者たちの多くが左派のアイデンティティ政治の枠組みを借用して我々白人は迫害されたマイノリティだと主張していることでしょう。これは我々の政治でかなり新しいものだと思うのです。

アイデンティティ政治の根本原因はやはり経済格差にあるはずと見ています。

FUKUYAMA: I think that this is something behind the Trump vote; that a lot of the working-class people that had lost jobs, that were not living in coastal cities, not connected to the global economy except, you know, as they were victimized by it - simply felt ignored by the elites that were doing very well. And I think it reflected the fundamental economic inequalities that have appeared over the last 30 years as a result of advances in technology and globalization. And so the real claim, I think, was being invisible to people that were part of the elite.
これはトランプへの投票につながったものだと思います。労働者階級の多くが職を失い、ニューヨークやロサンゼルスに住んでおらず、グローバル経済との結びつきがなく、あるとすれば犠牲を被っていること、そんな人々はとてもうまくやっているエリートから無視されていると単純に感じていたのです。これはは構造的な経済不平等を反映していると思います。過去30年以上存在し、技術進歩やグローバル化によってもたらされました。この実情の訴えがエリートを担う人々には見えていなかったのでしょう。

生まれつきの特徴がアイデンティティを構成するのではない、開かれたアイデンティティこそを求めるべきと主張しています。

CORNISH: At the end of the day, is there any way off this kind of path? Like, if it's tied to who we are and how we feel about ourselves, each and every person and voter, it's very hard to kind of lower those stakes.
最終的にこの種の流れから逃れる方法はあるのですか。例えば、もし我々が何者であるのか、自分たち、各人、各投票者自身をどのように感じているのかに結びついているなら、鎮静化するのはとても難しそうです。
FUKUYAMA: I think it's actually quite possible because we're actually not born with identities. Our identities aren't necessarily biological. We construct identities all the time. And I think one of the tasks is to reconstruct an American national identity that is open to everybody, bound together on the basis of political principles - like the Constitution, like the rule of law, like the principle of equality in the Declaration of Independence. That's the kind of constructed identity that we need as an antidote to the kinds of polarizing identities that our politics has fallen prey to.
実際には変えられると思います。我々はアイデンティティを持って生まれるわけではないですから。我々のアイデンティティは生まれつきのものである必要はありません。常にアイデンティティを形作っているのです。取り組むべきことの一つはアメリカの国民アイデンティティを再構築することです。誰にでも開かれ、政治的原則に基づいて団結していくというものです。憲法であったり、法の支配であったり、独立宣言の平等原則であったり。この種の作り上げたアイデンティティを分極化し政治に利用されたアイデンティティへの対抗手段として我々が必要としているのです。

こういう主張ですぐに思い浮かぶのがオバマの演説ですよね。



Well, I say to them tonight, there is not a liberal America and a conservative America — there is the United States of America. There is not a black America and a white America and Latino America and Asian America — there's the United States of America.

The pundits like to slice-and-dice our country into Red States and Blue States; Red States for Republicans, Blue States for Democrats. But I've got news for them, too: We worship an awesome God in the Blue States, and we don't like federal agents poking around in our libraries in the Red States. We coach Little League in the Blue States, and, yes, we've got some gay friends in the Red States. There are patriots who opposed the war in Iraq and there are patriots who supported the war in Iraq. We are one people, all of us pledging allegiance to the stars and stripes, all of us defending the United States of America.

ただ共和党側はそのようにはみなさないようで、オバマこそが分断の象徴だとするWSJの論評記事がありました。

The former president didn’t have much success helping other Democrats get elected in 2010 or ’14.
By Jason L. Riley
2018 年 9 月 12 日 13:52 JST

Despite this track record, Democrats are turning to Mr. Obama because he remains the biggest star in the party. They’re also turning to him because they believe his brand of identity politics is the best way to beat Mr. Trump. Earlier this summer, Mr. Obama implored his fellow Democrats to “engage with people not only who look different but who hold different views.” Apparently, he had second thoughts.
こうした戦歴にもかかわらず、民主党はオバマ氏に頼ろうとしている。オバマ氏が今も同党で最大のスターだからだ。また、アイデンティティー政治というオバマ氏の定評が、トランプ氏を破るのに最良の道具だと考えているためでもある。オバマ氏はこの夏、複数の民主党員に対し、「見かけが違う人々だけでなく考えが異なる人々ともかかわりを持つ」よう懇願した。どうやら考えを変えたようだ。

こういう論評を読むとアイデンティティ政治の根の深さを感じます。


Yutaのざっくり訳は以下の通り。

CORNISH:アイデンティティ政治というフレーズは政治の侮辱表現として使われるようになりました。今は人口構成に合わせた選挙民への迎合のことを簡潔に指す表現ですです。しかしフランシス・フクヤマによれば今は皆がアイデンティティ政治に訴えかけています。ナショナリズム、イスラム過激派などの運動が経済世界秩序に失望させられ、アイデンティティに苦労している人々によって活気づいています。彼の新刊タイトルは『アイデンティティ 尊厳の要求と恨みの政治』。フランシス・フクヤマにお越しいただき詳しく話していただきます。
Thank you.
FRANCIS FUKUYAMA: Thank you.
CORNISH:ドナルド・トランプが大統領に選ばれていなければこの本が書かれることはなかったと書いています。なぜですか。
FUKUYAMA:ドナルド・トランプは私個人の知的課題に断絶を起こしました。ちょうど彼が政治で多くの断絶を起こしたように。彼が引き起こしている課題は、政治面だけではなく、まさにアメリカ民主主義の基盤となるものです。あのようなタイプの人物によって、あのような扇動政治によってなされていますが、アイデンティティの問題に乗じたものなのです。コアのトランプ支持者は彼らが考えるこれまでのアメリカのアイデンティティが脅かされていると感じてる人たちです。だからこそ移民がトランプにとってそんなにまで重要になっているのです。ですからこの本はそのようなことをじっくり考えてみようとする試みです。
CORNISH:今日のアメリカ政治でどんな役割を果たしているとみていますか。悪化する方向になっていますか。
FUKUYAMA:アメリカ政治の本当の問題は我々が変化して経済政策を論ずるのではなく、アイデンティティを論ずるようになったと思うのです。いつものアイデンティティは運の悪いことに右派も左派も生まれついたものを根拠にしています。そこでは妥協することも交渉することもできません。
CORNISH:あなたが何者であるか、根本的に何者であるかに密接に結びついているものとは交渉しようがないということですね。
FUKUYAMA: その通りです。つまり、生まれながらのものであるなら、それを変更することはできません。そのアイデンティティからは逃れられません。民主政治には本当に有害だと思います。意思疎通、議論、妥協をはるかに困難にしてしまうからです。それに民主政治を維持するために必要な通念を損ないます。
CORNISH:このような状況になってしまったというのはまったく驚きですか。例えば白人のアメリカ人が彼らのアイデンティティを語るようになるというのは。
FUKUYAMA: 驚くということではないですが、落胆させるものだと言わないといけません。これまでも人種差別と外国人排斥はありました。現段階で独自なものは「アルトライト」や白人至上主義者たちの多くが左派のアイデンティティ政治の枠組みを借用して我々白人は迫害されたマイノリティだと主張していることでしょう。これは我々の政治でかなり新しいものだと思うのです。
CORNISH: 尊厳を失うことがこのことにどう寄与していますか。どういった点が人々が十分な注意を払っていないところでしょうか。
FUKUYAMA:これはトランプへの投票につながったものだと思います。労働者階級の多くが職を失い、ニューヨークやロサンゼルスに住んでおらず、グローバル経済との結びつきがなく、あるとすれば犠牲を被っていること、そんな人々はとてもうまくやっているエリートから無視されていると単純に感じていたのです。これはは構造的な経済不平等を反映していると思います。過去30年以上存在し、技術進歩やグローバル化によってもたらされました。この本当の訴えがエリートを担う人々には見えていなかったのでしょう。
CORNISH:最終的にこの種の流れから逃れる方法はあるのですか。例えば、もし我々が何者であるのか、自分たち、各人、各投票者自身をどのように感じているのかに結びついているなら、鎮静化するのはとても難しそうです。
FUKUYAMA:実際には変えられると思います。我々はアイデンティティを持って生まれるわけではないですから。我々のアイデンティティは生まれつきのものである必要はありません。常にアイデンティティを形作っているのです。取り組むべきことの一つはアメリカの国民アイデンティティを再構築することです。誰にでも開かれ、政治的原則に基づいて団結していくというものです。憲法であったり、法の支配であったり、独立宣言の平等原則であったり。この種の作り上げたアイデンティティを分極化し政治に利用されたアイデンティティへの対抗手段として我々が必要としているのです。
CORNISH: Francis Fukuyama, thank you so much for speaking with ALL THINGS CONSIDERED.
FUKUYAMA: Thank you very much.

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