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Uncharted Territory

自分が読んで興味深く感じた英文記事を中心に取り上げる予定です

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賢治と陽水

 


次の記事でロバートキャンベルさんが井上陽水の詩を訳した『井上陽水英訳詞集』を出版されたのを知りました。3000円近くしますが、歌詞の英訳だけではなく、どのように翻訳したのかを説明してくださっているので英語学習的にもとても勉強になります。次は翻訳について語っているところ。

村上 隆則2019年05月17日 10:44

翻訳という作業は、元の言語をどのくらいの深度で理解して、意味、感情など、元の詩や文章を読んで感じることを再現するかが課題になってきます。加えて今回は歌詞の翻訳なので、リズムや速度、音の調子なども制御する必要がありました。

「日本語には主語がない」とよく言われることですが、まさにその問題にぶつかったところです。こういうのは具体的な文脈で色々考える方が勉強になります。

『傘がない』の英訳に思わぬダメ出し
—— 反対に、難しかったものはありますか

『傘がない』は陽水さんの代表曲のひとつでもありますが、翻訳するにあたって難しかった歌詞です。この歌詞は、「都会では自殺する若者が増えている 今朝来た新聞の片隅に書いていた」「テレビでは我が国の将来の問題を 誰かが深刻な顔をしてしゃべってる」といったように、時事に沿って書かれているように見えます。これは私もすごく好きな歌で、70年代の若者達が分別くさく語っている大人たちに背を向けて雨の中彼女に会いに行く、というシンプルな内容だと思っていたんです。

それで当初、タイトルを「I've got no umbrella」としました。この訳は日本語を英語にする時よくやるように、一人称をつけています。日本語は話者同士の関係性や文脈に依存するところが大きく、数や人称や時制を補わないと英語として固まらないことが多いからです。しかし、これを陽水さんに見せたところ、ダメ出しをされてしまって。

—— 一見、間違っていないようにも思いますが

そのダメ出しはまさに付け加えた「I」へのものだったんです。つまり、「『俺の傘』ではないんです、その理由を考えて下さい」と言われてしまった。でも歌詞には「君の町に行かなくちゃ」とあるし、おそらく男の主人公がいるはずだと当時の私は思っていて。なぜ陽水さんはそんなにこれを否定するのか悩んだんです。それで陽水さんに答えを聞くと、「傘というのは、生きているうちにある色んなことから自分たちを守ってくれるものだから、誰かのものであってはならないんです」とおっしゃった。それで、「No Umbrella」にしてくださいと。これは今回の50曲のなかで井上陽水さんが唯一、英訳した部分ですね(笑)。

キャンベルさんは次のように訳されていました。

傘がない
都会では自殺する若者が増えている
今朝来た新聞の片隅に書いていた
だけども問題は今日の雨 傘がない 

行かなくちゃ 君に逢いに行かなくちゃ
君の町に行かなくちゃ 雨にぬれ

No Umbrella
In the cities, youth suicides on the rise."
It's written so in a corner of the morning paper.
But hey, the problem is, you know, today's rain - there's no umbrella.

I've gotta go, gotta get out, out to see you
over to your side of town drenched in the rain.

宮沢賢治の雨ニモマケズも主語をどうするかは問題になりますね。青谷さんとカーベンターさんの強力タッグの英語朗読でたのしむ日本文学では、カーペンターさんは次のように語っていました。

Julie's Eye
The first difficulty was how to render「負けず」- a common verb in Japanese that doesn't call attention to itself. I wanted to find a word that conveyed strength and dignity and that also had a nice sound to it. I settled on "undeterred" as the closest I could come. I think the three syllables of that word balance the monosyllable “rain" and give the line a nice rhythm: “pum-pa-pum-pa-pum." The second diffculty was the subject, which I decided to omit as far as possible, as in Japanese. The poem reads like a prayer, and leaving out the subject helps to convey Miyazawa's spirit of humility.


雨ニモマケズ
Undeterred by Rain
まず難しかったのは、「負けず」という、ごく普通で、人の注意を引くことのない日本語の動詞を、英語でどう表すかです。私は、強さや威厳を伝えた上で、響きもよい単語を見つけたいと思って、最も近いであろうundeterredに落ち着きました。節から成るundeterredが、1音節のrainとバランスを取っていて、その行全体が「パン·パ·パン·パ·パン」(un-de-terred-by-rain)という快いリズムになっていると思います。次に難しかったのは主語で、私は、日本語の原文と同様にできるだけ省くことにしました。この詩は祈りのように読めますし、主語の省略が、宮沢賢治の謙虚な精神を伝えるのに一役買っています。

ちょっと無理やり青谷さんの書籍を出しましたが、井上陽水はこの詩について歌っていていたことをキャンベルさんの本で知ったからでした。



ワカンナイ

雨にも風にも負けないでね
暑さや寒さに勝ちつづけて
一日 すこしのパンとミルクだけで
カヤブキ屋根まで届く
電波を受けながら暮らせるかい? 

Can't Grasp It

Don't give in to the wind or the rain,
make it through all the heat and cold
with just a bit of bread and milk all day
in a thatch-roof shack where
the air waves reach you can you really live like that?

君の言葉は誰にもワカンナイ
君の静かな願いもワカンナイ
望むかたちが決まればつまんない
君の時代が今ではワカンナイ

Nobody grasps what you're saying.
Can't grasp your silent wish either.
What a bore when your hopes take shape.
Now I can't grasp your past.

翻訳とはなんて大上段から語って何かした気になるのではなく、キャンベルさんの本や、青谷さんの本から個々の実践に身を置いた方が楽しいし、勉強になります。
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