Posted at 2021.07.07 Category : 未分類
アメリカのメディアをある程度追っている方はCritical Race Theoryという言葉を目にするようになっていたと思います。グーグルトレンドを見ても今年に入って特に6月あたりからアメリカではこの言葉の使用例が急増しているのが見てとれます。
Yutaが興味を持ち始めたのはFresh Airで取り上げてくれていたからですが、この番組を聞いただけではうまく消化できていませんでした。
June 24, 20214:30 PM ET
An NBC News analysis finds at least 165 local and national groups are trying to disrupt or block lessons on critical race theory. NBC reporter Tyler Kingkade explores who is waging this fight, and why. "Opponents are using critical race theory as really more of a catchall to include anything teaching students about systemic racism, any mention of white privilege, and really the definition that they're using has expanded to include anything related to equity, diversity and inclusion," he says.
購読者限定の記事かもしれませんが、日本語で読めるもので背景を含めて丁寧に解説してくださっているのは以下の記事でした。なかなかわかりやすくまとめた記事がない中、大変ありがたいものです。
潮流・深層
古本陽荘・北米総局長 2021年7月3日
この数カ月、それまでは聞いたことがなかった批判的人種理論(Critical Race Theory)という言葉を毎日のように米国のメディアで見聞きするようになった。保守系メディアが「教育の現場や職場で批判的人種理論を禁止しろ」という主張を繰り広げ、これを受けて全米各地で論争になっている。
例えば公共放送PBSが6月24日に放送した南部バージニア州のある小学校の集会の様子。批判的人種理論について学校が親から意見を聴取するために設けられたものだ。この中である女性は「批判的人種理論はマルクス主義にルーツがある。学校で教えられるべきものではない」と主張した。別の男性は「白人は人種差別者だと学校が教えないという確約を得るまで私は何でもするつもりだ」と訴えた。
(中略)
ところが、批判的人種理論を教えている小学校など存在しないのだ。
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この論争は、ニューヨーク・タイムズ紙の連載「1619プロジェクト」を巡る議論の延長線上にあるとも言える。タイムズ紙の2019年のこの連載は、米国の建国を1776年ではなく、アフリカから連れてこられた最初の奴隷が確認されている1619年として、米国史を見直すという特集記事だ。ピュリツァー賞を受賞した一方で、「歴史をゆがめている」などとの批判の声が上がり、大論争になった。
トランプ氏と共和党は、「正しい歴史」を教え、「愛国者」を育てるための「1776委員会」を設置し、1619プロジェクトに反発した。1776委員会は、トランプ氏が退任する直前に報告書を発表したが、大きな注目を集めることはなかった。
批判的人種理論をめぐる論争は、「文化戦争」を再び盛り上げ、選挙に利用したい共和党の思惑が働いたものと言って間違いない。批判的人種理論という専門用語が、左派インテリの革新的な理論という雰囲気を持っており、敵対する保守主義運動にとっては、使い勝手がよいという面もあるのだろう。内容ではなく、イメージが独り歩きすれば、選挙の道具としては十分なのだ。
色々記事を読んでみたりしたのですが、背景含めてわかりやすく説明してくれていたのがTIMEでした。アジア版だとカバーストーリーになっていませんでしたが、アメリカ版だと表紙にまでなっています。独立記念日という時期的にもぴったりだと判断したのでしょうか。カバーストーリーは5000語を超えるので読むのは大変なのですが、コミュニティレベルでの現在の動きだけではなく、歴史的な政治化した教育問題にも含めて取り上げてくれており、Yutaとしてはここまで説明されてようやく腑に落ちた感じです。
Olivia B. Waxman @OBWax June 24, 2021 Updated: June 24, 2021 1:46 AM
「批判的人種理論をめぐる論争は、「文化戦争」を再び盛り上げ、選挙に利用したい共和党の思惑が働いたものと言って間違いない。」と毎日新聞の記者の方も書いてくれていますが、TIMEの切れ味を感じられるのはIn short, “Make America Great Again” has evolved into “Teach America’s Great Again.”とキャッチーにまとめてくれているところ。
In short, “Make America Great Again” has evolved into “Teach America’s Great Again.” Candidates for local school boards, which tend to wield power over questions like which textbooks are used, are being grilled about where they stand on historical facts. Like nearly all controversies involving race in the aftermath of George Floyd’s murder, Americans are joining Team 1776 or Team 1619 along partisan lines. Last fall, the American Historical Association and Fairleigh Dickinson University, supported by the National Endowment for the Humanities, conducted a national survey on what Americans think about history. In preliminary results shared with TIME, they found that 70% of Democrats said the study of history should “question” the past, while 84% of Republican respondents said the goal was to celebrate it.
キャッチーなだけではなく、これがトランプ的な運動だとわかれば6月にトランプ自ら教育論について寄稿した理由も感じ取れます。
COMMENTARY By Donald J. Trump June 18, 2021
このことに触れたくなったのは、国際政治にお詳しい鈴木一人先生のツイートを覚えていたから。
トランプ前大統領の署名で書かれた記事。1619プロジェクトのような国民を分断するような教育は止めろという教育論で、内容は在任中にもちらほら言っていたことではあるが、大文字の単語も見当たらないし、理路整然と書いてあるので、どうもご本人の筆だとは思えない…。
この騒動を知らなかったのでトランプも的外れなことをやっているなと勘違いしてしまったのですが、トランプは今も現役バリバリで政治的に煽りまくってているのですね。TIMEではしっかりそのことに触れてくれていました。Yutaにとってはコンテクストをしっかりと踏まえて、点になっている情報を結びつけてくれるものでした。
The former President is still in on the action too. In a June 18 op-ed on RealClearPolitics, Trump called for a 1776 Commission in every state, the establishment of a patriotic-education corps à la Teach for America, and a voucher program to move kids out of schools teaching CRT.
These tactics mark a new chapter in the culture wars over education, experts say. “Conservative activists have always worried that innocent white American children might be harmed by a traumatic exposure to ideas about race, class and American exceptionalism,” explains historian Adam Laats, author of The Other School Reformers: Conservative Activism in American Education. “But in the 20th century they did not accuse progressives of teaching racist ideas.”
日本でも自虐史観という問題が今でも引きずっているのでこういうのは難しい問題ですが、大きな違いはそもそもcritical race theoryなんて義務教育では教えられていないこと。それなのにここまで騒動になっているということは煽っている人がいるということでしょう。毎日新聞でもTIMEでも、PBS Newshouでも学校で教えられていないことは触れています。
Like many communities where critical race theory has been a subject of fierce debate, the Rockwood school district does not even teach it. Actual critical race theory is rarely taught below the graduate level.
Parents who agree with Prior are now part of a growing chorus opposing what's known as critical race theory, or CRT, often a graduate level framework that examines how the legacy of slavery and segregation in America is embedded in legal systems and policies.
The thing is, critical race theory isn't being taught here. But that didn't stop dozens of parents from flooding a recent school board meeting to protest it.
対話の難しさを感じるのは、この騒動を昨年の秋に焚き付けた張本人とされるChristopher Rufoの動画を見ると一目瞭然です。彼は学校で教えているのは「事実」と言って聞く耳を持ちません。
FOXニュースが胡散臭いのは、アンカーがこの運動をgrassrootなものだと言っていること。上から煽っておいてよくぬけしゃあしゃあと言えたものです。
PBS Newshourで出てきた白人側の弁明が以下です。これはTIMEとかに登場した白人の親も似たようなことを言っているのですが、一見するともっともなことを言っています。
Ian Prior: We're not about not teaching history. We're about teaching history in an objective way that is not represented as America is systemically racist.
Ian Prior: So, there's a balancing act here of making sure that there's equal opportunity for all, that we're committed to meritocracy, but also that, when we are trying to figure out how to deal with any kind of social problems, we do not overstep and overreact.
ただ、これは金持ちの子供が恵まれた環境で惜しみない援助を受けて成功したのに、自分の能力で成功したと思っているのと同じ感じしかしないんですよね。でもYutaがこんな冷めた目で見れるのはあくまで外国の話だからでしょう。日本での問題になればなったで、赤い国の陰謀だ!、日教組が!、アベガー!みたいな感じのに巻き込まれてしまいますから。。。
このブログでは何度も書いている事ですが、海外の記事を読んでいると状況を共有していないので、そもそもなんでこんなことが話題になっているの?と疑問に思うことが多々あるんですよね。そんな中、TIMEのような情報誌の存在は本当にありがたいものです。
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