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Uncharted Territory

自分が読んで興味深く感じた英文記事を中心に取り上げる予定です

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Unbeaten Tracks in Japan

 
東大駒場で開催されている『ツイン・タイム・トラベル イザベラ・バードの旅の世界 写真展』に行ってきました。当時、世界中を旅したルートを追体験できるもので、渋谷に行く機会があるような方は寄ってみてもいいかもしれません。

駒場博物館では3月16日より「ツイン・タイム・トラベル イザベラ・バードの旅の世界 写真展」を開催いたします。

イザベラ・バードは、明治初期に日本を訪れ『日本奥地紀行』を著した英国女性旅行家です。その旅は南米と南極を除く全大陸にまたがり、期間は半世紀にも及びます。今回の展示では、地理学者・金坂清則(本展監修者、京都大学名誉教授、王立スコットランド地理学協会特別会員)がバードの旅の世界をたどり撮影した写真を、バードの写真や記述と対比することで、一世紀以上を隔てた風景を「持続と変化」という視点から理解する面白さを伝えます。

英語で生計を立てていますが、自分の関心は自分の知らない世界を知ること、その世界を生きる人の気持ちを理解しようとすることなんだろうなと思います。ですから、資格とは関係ない雑学なんかも興味を持って調べることができるのでしょう。

日本人にとっては、1878年に出版されたUnbeaten Tracks in Japan(日本奥地紀行)となるでしょうか。展覧会で紹介されていた彼女のかっこいい言葉が以下です。ありがたいことに原書はグーテンベルクで公開されています。

When I inquire about the "unbeaten tracks" that I wish to take, the answers are, "It's an awful road through mountains," or "There are many bad rivers to cross," or "There are none but farmers' houses to stop at." No encouragement is ever given, but we get on, and shall get on, I doubt not, though the hardships are not what I would desire in my present state of health.
わたしのたどりたい「未踏の道」について尋ねても、「山のなかを通る恐ろしい道だ」とか、「ひどい川がいっぱいある」とか、「泊まるところが農家以外になにもない」という答えしか返ってこないのです。励ましとなる返事はひとつもありませんが、でもわたしたちは旅を続けます。いまのような健康状態では、困難な旅などとうてい望んではいないとはいえ。


日本語訳は講談社学術文庫からです。Kindle版を買ったのですが、電子版なのに索引機能をつけないとか、日本の出版社の怠慢には腹がたいます。こんな基礎レベルのサービスも提供できないで、活字文化を守るとかほざいて欲しくないです。

当時の人や外国人がどのように感じるか、それは言葉や表現を通しか知るしかありません。特に時代が違えばなおさらです。有名なネタですが、彼女が日本に船でやってきたときの富士山の描写と絵になります。イラスト付きはこちらのサイトで読めます。

Fujisan550.jpg

For long I looked in vain for Fujisan, and failed to see it, though I heard ecstasies all over the deck, till, accidentally looking heavenwards instead of earthwards, I saw far above any possibility of height, as one would have thought, a huge, truncated cone of pure snow, 13,080 feet above the sea, from which it sweeps upwards in a glorious curve, very wan, against a very pale blue sky, with its base and the intervening country veiled in a pale grey mist. {1} It was a wonderful vision, and shortly, as a vision, vanished. Except the cone of Tristan d'Acunha—also a cone of snow—I never saw a mountain rise in such lonely majesty, with nothing near or far to detract from its height and grandeur. No wonder that it is a sacred mountain, and so dear to the Japanese that their art is never weary of representing it. It was nearly fifty miles off when we first saw it.

 甲板じゅうで歓声があがっていたものの、わたしにはずっと探しても富士山が見えなかったのですが、ふと陸ではなく空を見上げると、予想していたよりはるか高いところに、てっぺんを切った純白の巨大な円錐が見えました。海抜一万三〇八〇フィート[約三九八七メートル]のこの山はとても淡いブルーの空を背に、海面の高さからとても青白い、光り輝くカーブを描いてそびえ立ち、その麓も中腹も淡いグレーのもやにかすんでいます。それはすばらしい幻想のような眺めで、いかにも幻想らしくまもなく消えてしまいました。やはり円錐形の雪山であるトリスタン・ダクーナ山はべつとして、これほどその高さと威容を損なうものが付近にも遠くにもなにひとつない、孤高の山は見たことがありません。日本人にとっては聖なる山であり、飽くことなく芸術作品の題材とするほど大切にしているのもふしぎはありません。最初目にしたとき、この山はほぼ五〇マイル[約八〇キロ]のところにありました。

こういうのは絵のうまさ・下手さというよりも、彼女が受け取った印象はそのようなイメージだったと捉えるべきかもしれません。ネットでしらべたことろ、旅を終えたあとの富士山は日本人のイメージ通りになっているそうです。

20120302_4871510.jpg

なぜあのような奥地を旅する気になったのかは、彼女のみ知るのかもしれませんが、本の最後にはキリスト教布教の見通しという章を立てて書いていますから、目的のひとつに布教活動の見通しを立てることもあったのでしょう。そのような面を考察した論文もありました。

イザベラ・バードのUnbeaten Tracks in Japanにおける「未踏」の二重の意味
高 畑 美代子

明治初期の伝道は、一方に不自由な宣教範囲、人的・物的不足、さらには言語上の未熟といった 宣教師側の問題があり、他方被宣教民の側には、永いキリスト教禁制の歴史により培われたキリス ト教に対する邪教・異教の偏見と、日本人の意識の根底とされる先祖崇拝は唯一神を信仰するキリ スト教とは相容れず、多くの迷信や慣習が彼らの生活を縛っている、という現実があった。また、 個人と神の問題の間には、明治新政府の神道を主体とした宗教政策による新しい国造りも絡んでい た。国際社会において、文明国の一員として認められるために西洋化政策を進める一方では、国体 としての日本古来の道徳・精神の維持を模索してもいたのである。このような状況において、イザベラの東北山間部の旅はただ西洋人の知らない地への旅行というだけではなく、その地は彼女(西洋人)から見ての文明化以前、つまりキリスト教の声を聞く以前という時間軸の中に位置する伝道の未踏の地でもあった。

イザベラ・バードの日本旅行記であるUnbeaten Tracks in Japanにおいて“unbeaten tracks”は すべて括弧つきであった。彼女にとってこの言葉は特別な意味を持つ言葉に違いないというのが本 稿の出発点であった。そして、それは上述のような二重の意味を持つものであるということを解明 できた。

初版本(1880)では、「伝道」と「未踏」が二重構造をなしていた。しかし、その5年後の普及 版(1885)では、初版本の中のキリスト教とその伝道に関する部分、および日本の宗教や「迷信」 に関する部分をほぼすべて削除してしまったため、字義どおりの第1の意味だけが強調される結果 になった。ただし、彼女は生前に本書を再刊行(新版1900)するにあたって、初版本を復活させた のである。

明治初期の北部日本の勇気ある旅行者として知られているイザベラではあるが、キリスト教に帰依するものであることもその一面である。彼女の旅の意義を理解するためには、彼女の記した多彩な日本の様相とそれに対する彼女の視点や思考を様々な角度から検討していくことが必要と考えられる。それを今後も筆者の課題としていきたい。


読みたい本ばかりがたまって大変ですが、ぜひとも時間を作って目を通したいです。
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