Posted at 2013.07.14 Category : 読書報告
English Journal読者には、アメリカ文化についての越智道雄先生のエッセイはおなじみだと思いますが、以下のような三冊を出版されていました。この三冊を読めば、東海岸、西海岸、大統領を通してアメリカの歴史、社会、政治が浮かび上がってくることでしょう。
文章が堅くて読みづらい、文化を単純化して構図的に描きすぎている、富裕層による陰謀主義的な政治経済批判という政治的立場が表に出過ぎているという点がありますが、それを差し引いても、豊富な政治・文化の知識のある越智道雄先生の説明はとても説得力があり、これまで自分が理解していたアメリカ社会がより違った形で立ち上がってきます。映画や音楽などのエンタメを例として説明してくださるので、堅苦しくなりすぎないのも助かります。
以前このブログでオクラホマラッシュについて取り上げたことがありますが、最新刊『カリフォルニアからアメリカを知るための54章』では、アメリカのフロンティア開拓での特徴の一つとして最初に取り上げていました。
。
もう1つのイメージは幌馬車を駆っての土地獲得競争、「オクラホマ・ランドラッシュ」である。これはトム・クルーズとニコール・キッドマン主演の映画『遥かなる大地へ』(1992)のクライマックスに描かれる。19世紀も押し詰まり、フロンティアがなくなると、インディアンの居留地を騎兵隊が奪ってそれを区画し、土地を求めてアメリカ東部や、はるばるヨーロッパから押し寄せた人々に争奪レースをさせるのだ。レースも一切を騎兵隊が取り仕切る。膨大な人数なので、大砲をぶっぱなしていっせいにお目当ての土地まで走り出す。フライングは即射殺。でこぼこの原野を騎乗でかけるだけでも危険極まりないのに、なけなしの財産を積んだ馬車を残しておくと盗まれるので、その馬車で参加した者も多かった。結果、原野は落馬・転倒のため死傷した人馬で埋まった。さらにはお目当ての土地バッティングによる殺し合いも頻発した。
西進者の心に内在した「奇怪なフロンティア」
この荒々しさは、「誰もが仲間の集団から自分を切り離せる」(アレクシ・ド・トクヴィル)という、ヨーロッパにはなかった強烈な個人主義に起因していた。親より出世することは、アメリカでは当たり前だった。ヨーロッパでは、価値は土地、親族、共同体、伝統に根ざしていた。アメリカでは、価値は個人の中にこそ存在した。したがって、フロンティアすら「西進者たち」に内在していた(むろん、そこに代々住み続けてきたインディアンたちにとっては話は別だ)。西進のフロンティアは「奇怪なフロンティア」で、ギャストの巨大な女神によってしか表せないものだった。
そして、「奇怪なフロンティア」での合い言葉はこうだった。「突き進め、猛烈に突進せよ(中略)見通しが暗くなれば、これまで以上に突き進め(中略)動きがとれなくなっても突き進め(中略)気力が萎えれば突進、突進(中略)突進を続けよ」。
越智先生はこのオクラホマラッシュをアメリカ史の「明白な運命」を説明するさいに必ずと言っていいほど登場する「アメリカン・プログレス」という絵画と共に紹介していました。

(ウィキペディアの「マニフェスト・デスティニー」の項目での絵のキャプション)
1872年に描かれた「アメリカの進歩」。女神の右手には書物と電信線が抱えられており、合衆国が西部を「文明化」という名の下に征服しようとする様子を象徴している。背後には1869年に開通した大陸横断鉄道も見える。
American progress
English: This painting shows "Manifest Destiny" (the religious belief that the United States should expand from the Atlantic Ocean to the Pacific Ocean in the name of God). In 1872 artist John Gast painted a popular scene of people moving west that captured the view of Americans at the time. Called "Spirit of the Frontier" and widely distributed as an engraving portrayed settlers moving west, guided and protected by a goddess-like figure of Columbia and aided by technology (railways, telegraphs), driving Native Americans and bison into obscurity. It is also important to note that angel is bringing the "light" as witnessed on the eastern side of the painting as she travels towards the "darkened" west.
越智先生の見方では、オクラホマラッシュはスタートは平等だが、結果は不平等になりうるというアメリカのあり方の典型のようです。前回調べたときは、それほどの意義を自分では見出せていなかったので勉強になりました。
このような出来事のインプリケーションを知ることはとても大変ですので、越智先生の三部作は癖があるかもしれませんが、とても勉強になります。
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文章が堅くて読みづらい、文化を単純化して構図的に描きすぎている、富裕層による陰謀主義的な政治経済批判という政治的立場が表に出過ぎているという点がありますが、それを差し引いても、豊富な政治・文化の知識のある越智道雄先生の説明はとても説得力があり、これまで自分が理解していたアメリカ社会がより違った形で立ち上がってきます。映画や音楽などのエンタメを例として説明してくださるので、堅苦しくなりすぎないのも助かります。
以前このブログでオクラホマラッシュについて取り上げたことがありますが、最新刊『カリフォルニアからアメリカを知るための54章』では、アメリカのフロンティア開拓での特徴の一つとして最初に取り上げていました。
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もう1つのイメージは幌馬車を駆っての土地獲得競争、「オクラホマ・ランドラッシュ」である。これはトム・クルーズとニコール・キッドマン主演の映画『遥かなる大地へ』(1992)のクライマックスに描かれる。19世紀も押し詰まり、フロンティアがなくなると、インディアンの居留地を騎兵隊が奪ってそれを区画し、土地を求めてアメリカ東部や、はるばるヨーロッパから押し寄せた人々に争奪レースをさせるのだ。レースも一切を騎兵隊が取り仕切る。膨大な人数なので、大砲をぶっぱなしていっせいにお目当ての土地まで走り出す。フライングは即射殺。でこぼこの原野を騎乗でかけるだけでも危険極まりないのに、なけなしの財産を積んだ馬車を残しておくと盗まれるので、その馬車で参加した者も多かった。結果、原野は落馬・転倒のため死傷した人馬で埋まった。さらにはお目当ての土地バッティングによる殺し合いも頻発した。
西進者の心に内在した「奇怪なフロンティア」
この荒々しさは、「誰もが仲間の集団から自分を切り離せる」(アレクシ・ド・トクヴィル)という、ヨーロッパにはなかった強烈な個人主義に起因していた。親より出世することは、アメリカでは当たり前だった。ヨーロッパでは、価値は土地、親族、共同体、伝統に根ざしていた。アメリカでは、価値は個人の中にこそ存在した。したがって、フロンティアすら「西進者たち」に内在していた(むろん、そこに代々住み続けてきたインディアンたちにとっては話は別だ)。西進のフロンティアは「奇怪なフロンティア」で、ギャストの巨大な女神によってしか表せないものだった。
そして、「奇怪なフロンティア」での合い言葉はこうだった。「突き進め、猛烈に突進せよ(中略)見通しが暗くなれば、これまで以上に突き進め(中略)動きがとれなくなっても突き進め(中略)気力が萎えれば突進、突進(中略)突進を続けよ」。
越智先生はこのオクラホマラッシュをアメリカ史の「明白な運命」を説明するさいに必ずと言っていいほど登場する「アメリカン・プログレス」という絵画と共に紹介していました。

(ウィキペディアの「マニフェスト・デスティニー」の項目での絵のキャプション)
1872年に描かれた「アメリカの進歩」。女神の右手には書物と電信線が抱えられており、合衆国が西部を「文明化」という名の下に征服しようとする様子を象徴している。背後には1869年に開通した大陸横断鉄道も見える。
American progress
English: This painting shows "Manifest Destiny" (the religious belief that the United States should expand from the Atlantic Ocean to the Pacific Ocean in the name of God). In 1872 artist John Gast painted a popular scene of people moving west that captured the view of Americans at the time. Called "Spirit of the Frontier" and widely distributed as an engraving portrayed settlers moving west, guided and protected by a goddess-like figure of Columbia and aided by technology (railways, telegraphs), driving Native Americans and bison into obscurity. It is also important to note that angel is bringing the "light" as witnessed on the eastern side of the painting as she travels towards the "darkened" west.
越智先生の見方では、オクラホマラッシュはスタートは平等だが、結果は不平等になりうるというアメリカのあり方の典型のようです。前回調べたときは、それほどの意義を自分では見出せていなかったので勉強になりました。
このような出来事のインプリケーションを知ることはとても大変ですので、越智先生の三部作は癖があるかもしれませんが、とても勉強になります。
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