『[原寸版]初期アメリカ新聞コミック傑作選1903-1944』(創元社)刊行記念 柴田元幸 講演会 「一世紀前の新聞マンガのすごさ」(2013年8月19日)
一世紀前、アメリカでは新聞マンガのものすごく豊かな世界が広がっていました。1ページをまるまる使った、色も構成もストーリーも言葉遣いも凝りに凝った、時に華麗、時に滑稽、しかしつねに心に取り憑くとびきり上級のアートを、読者は人気TVドラマを待つように楽しみに待っていました。よかれあしかれ、新聞の売れ行きもマンガの質によって左右され、新聞社は人気マンガ家の争奪戦をくり広げました。 今回の講演は、現代アメリカ小説の翻訳で知られる柴田元幸氏が、その「一世紀前の新聞マンガのすごさ」を存分に語り下ろします。現代マンガよりも過激で斬新。多くの視覚・文学表現に影響を与えた一級の芸術作品がついに目の当たりとなります。
柴田先生のお話だと、1900〜1910年代は才能あふれる人は新聞を舞台に活躍したそうです。雑誌TIMEは1920年代の創刊ですし、てれびが本格的に普及したのは1950年代以降ですから、当時は新聞=最新メディアだったのかもしれませんね。
出版社のサイトで本文の見本を見ることができます。
アメリカの出版社Sunday Pressが出したものの翻訳のようで、本来はバラバラに出版されたものを日本ではまとめたものを出した感じです。10万円を超えているので買うことはないので、講演会で話をきけてよかったです。4つのコミックについてSunday Pressのリンクが以下です。
ウィンザー・マッケイ
眠りの国のリトル・ニモ
ジョージ・ヘリマン
クレイジー・キャット
フランク・キング
ガソリン・アレーのウォルトとスキージクス
グスタフ・ヴァービーク
さかさま世界
この中で個人的に印象深かったのが「さかさま世界」でした。
グスタフ・ヴァービーク
さかさま世界
ピーター・マレスカ[編] 柴田元幸[監訳] 平塚隼介[訳] 原書:The Upside-Down World of Gustave Verbeek(Sunday Press Books,2011) 掲載作品:『ラヴキンズちゃんとマファルーじいさんのさかさま物語』(1903-05) 『ちっちゃなチビたちの珍道中』(1905-14)、『ルルのあれれ?なリリック』(1910)ほか 出典・連載媒体:『ニューヨーク・ヘラルド』
最後まで読んだらひっくり返すと続きが読める?珍品中の珍品!
一見すると、少女とおじいさんが登場する6コママンガ。だけど、おや? 最後のコマで話が途中が終わっている。次回に続くのかなと思いきや、さにあらず。続きを読むには、ページを上下さかさまにするのである。すると、さっきまで読んでいた6コママンガが作品の後半に早変わり。さっきまでの少女はおじいさんに、おじいさんは少女に姿を変え、おじいさんが乗ったボートと魚と島は、少女をくわえている巨大な鳥になってしまうのだ。
こんな奇想天外な作品は、世界マンガ史にもほかに例を見ないだろう。この『ラヴキンズちゃんとマファルーじいさんのさかさま物語』を描いたのは、長崎生まれのマンガ家、グスタフ・ヴァービークである。父親のグイド・フルベッキ(Guido Verbeck。グスタフは渡米時に綴りをVerbeekに変更)はオランダ人宣教師で、大隅重信や副島種臣とも親交のある人物だった。グスタフは幼少期を日本で過ごしており、その経験が後の創作に大きな影響を与えているが、日本で得たヒントのひとつに、笑っている顔を描いたものをひっくり返すと怒っている顔になる「上下絵(さかさ絵)」があったようだ。さかさまにすると違う絵になるだまし絵はヨーロッパにも古くから見られるものだが、洋の東西を問わずこうした発想があるというのは確かに興味深い。
本書には、1903年から05年にかけて発表された『さかさま物語』全64回分と、『ルルのあれれ?なリリック』全作、『ちっちゃなチビたちの珍道中』の一部を掲載した。詩が大好きな女の子ルルと、怪物を捕らえようとするお父さんの冒険を描いた『ルル』は、エドワード・リアやルイス・キャロルといった、ヴィクトリア朝のノンセンス詩と挿絵の伝統を汲む作品だ。『珍道中』では、4人の少年たちの前に、ゾウモリ傘、フラミンゴリラ、リゾットセイなど、かばん語(混成語)を駆使して生み出された動物たちが次々と登場する。しかし、時代は変わり、マンガに求められるものはノンセンスやスラップスティックからしだいに生活やリアリズムへ、さらには冒険や活劇へと変化していくのだった。
このコミックの特徴は説明に或る通り、同じ漫画をひっくり返して読んで続きが読めるということです。Sunday Pressにあった画像を以下引用させてもらいます。

下記のウエブサイトでも5話分読むことができます。ひっくり返して読めるようにダウンロードしてから、回転させて読んでくださいという説明書きが以下です。
Five upside-down comics, including A Fish Story, follow. Each will require Adobe Acrobat Reader. To see a particular comic upside down, download the pdf file, then open it with Acrobat Reader. Select View, then Rotate View, and Clockwise to rotate the image 90°. Repeat to turn the image upside down.
『ルルのあれれ?なリリック』というコミックはいくつかをこちらのリンクで読むことができます。
「詩が大好きな女の子ルルと、怪物を捕らえようとするお父さんの冒険を描いた『ルル』は、エドワード・リアやルイス・キャロルといった、ヴィクトリア朝のノンセンス詩と挿絵の伝統を汲む作品だ。」と説明にあるように、最後に詩を読んでおしまいです。
(ウィキペディア)
リメリック詩は5行から成っていて、押韻構成は一般に「AABBA」となる。韻脚の数は第1・2・5行は3つ(三歩格)、第3・4行は2つ(二歩格)。韻脚の種類はさまざまだが、最も典型的なものは、弱強弱格(Amphibrach)と弱強格(アナペスト)である。
第1行では伝統的に、人物と場所(地名)が紹介され、行の最後には地名がきて、押韻される。初期のリメリック詩では、しばしば第5行は第1行の繰り返しだったが、これは今では慣習的ではない。
There was a young lady from Riga, - (A)
who smiled as she rode on a tiger. - (A)
They returned from the ride - (B)
with the lady inside - (B)
and the smile on the face of the tiger. - (A)
作者不詳。大意「リーガ(地名)出身の若い淑女がおりまして/虎にまたがり微笑みました/乗虎から戻った時/淑女は虎の中にいて/虎の顔には微笑みが」
こういう滑稽詩や言葉遊びを含むナンセンスコミックというのは、吉田戦車が登場するずっと前からあったんですね(笑)
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