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Uncharted Territory

自分が読んで興味深く感じた英文記事を中心に取り上げる予定です

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コーパス分析の実践例

 


TOEIC学習者にはおなじみとなったテキスト分析データであるコーパスを駆使した新書が発売されました。


ヒトラー演説 - 熱狂の真実 (中公新書)ヒトラー演説 - 熱狂の真実 (中公新書)
(2014/06/24)
高田 博行

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(内容)
ナチスが権力を掌握するにあたっては、ヒトラーの演説力が大きな役割を果たした。ヒトラーの演説といえば、声を張り上げ、大きな身振りで聴衆を煽り立てるイメージが強いが、実際はどうだったのか。聴衆は演説にいつも熱狂したのか。本書では、ヒトラーの政界登場からドイツ敗戦までの二五年間、一五〇万語に及ぶ演説データを分析。レトリックや表現などの面から煽動政治家の実像を明らかにする。

演説の分析については同じ著者の下記論文が詳しいですが、この新書はどのように語られるかや、聴衆はどのように聴いたのかと幅広いかたちで演説を取り上げています。

時間軸で追うヒトラー演説
- コーパス分析に基づく語彙的特徴の抽出 -


ナチス運動期とナチス政権期での特徴語や、「白か黒かの選択を迫る「対比法」(Antithese)と、リズミカルな印象を耳に刻む「平行法」(Parallelismus)」のようなレトリックなどの説明は大変興味深いですが、新書では演説のテキスト分析だけでよしとせずに、発声法やジェスチャーなども含めて考察しています。

デヴェリントというオペラ歌手が発声法やジェスチャーを指導していたそうです。以下が一例です。

デヴェリントは、演説においてこれらの「感情語」を、その感情内容にふさわしい響きと色合いで発音することが重要であると説明した。ふさわしい響きと色合いを見つけ出して、ただそのように発生するだけで、その単語には新たな命が与えられ、聴衆は大いに魅せられるのだと、デヴェリントは解説した。

下記の演説は新書でも触れられていたもので、ジェスチャーの解説もしてくれています。デヴェリントの指導直後のもののようです。



この新書が素晴らしいのは、言葉がどう語られれば効果的なのか、という語る側からの視点だけではなく、言葉がどのように受け止められたのか、聞き手である聴衆の反応にも触れている点です。マイクやラジオによって、広く演説が行き渡るようになったものの、ナチス運動期からすでに、ヒトラーの演説に飽きている聴衆がいたそうです。

コーパス分析を期待してこの本を読むと割り当てられたスペースの少なさにがっかりするかもしれませんが、言葉というのは語られる内容だけで存在しているのではなく、どのような事情で語られたのか、どのような方法で語られるか、どんな聴衆がどのように聴いていたのかも重要な視点でしょう。言語面だけではなく歴史、社会での展開も関連づけて語っている本書は、語法、発音など、個別に語ればすむという態度が根強い英語学習業界の人々には一読を勧めたいです。
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